Episode1 カフェオレ

「中澤さんは、どんな人がタイプなの?」
 オフィスでの休憩時間、同僚に彼女ができたことをきっかけに、社員と恋愛話に花を咲かせていた。できるだけ話の的にならないよう、さりげなく聞き役に徹していたのだが、とうとう話が回ってきてしまった。
「タイプですかー…。う~ん、男らしくて、仕事ができる人、ですかねー」
 この手の話は苦手だった。“タイプは安定した職業についてて、貯金のあるひとです”なんて、正直なことを言おうものなら、どんな目で見られることになるか、簡単に想像できてしまうからである。嘘にはならない程度の、無難な言い方をした。
「それなら、中澤さん選びたい放題だね。ここには男らしくて仕事ができる人間しかいないし」山下さんは、そう言って髪をかきあげる仕草をする。
 彼は、私の三年先輩だ。明るい性格で、チームのムードメーカーである彼は、人見知りの私でも話しやすい人であった。
 そんな彼を、空気が読めないことと、自信過剰なところがキズなのよ、と最初の頃に説明してくれたのは、チーム内で私以外の唯一の女性社員、阿部さんだ。阿部さんは、山下さんの頭を、軽く叩きながら言った。
「何言ってんのよ。あんた昨日もミスして室長に怒られてたくせに。大体ここ、男臭いだけで、男らしい人なんて、一人もいないじゃない」
「昨日は確かに失敗しちゃいましたけど、そんな、しょっちゅうやってるみたいな言い方、やめてくださいよ。俺、そこそこ仕事出来る人間でしょう?」と、山下さんが言う。
「まあ、否定はできないな。でもお前、それ自分で言うからダメなんだよ。そういうのは周りから評価された上で、そんなことないです、って否定するくらいが、本当にできるやつの振る舞いだぞ」と、須藤さんが笑う。
 須藤さんは、四十手前で、このチームの最年長者であり、ただひとりの既婚者だ。穏やかな性格で、チームには欠かせない人だった。
「いやー、できるやつだなんて、そんなー」という山下さんに、今更ね、とやはり阿部さんの突っ込みが入る。
「そういえば、ここで瞳ちゃんのタイプと言えそうなの、一人だけいたわね。男らしくて、仕事ができる。私が瞳ちゃんの彼氏として認めてあげれるのも、室長だけよ」と阿部さんが言った。




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